示談金パワハラ　示談の流れと示談金の相場は

パワハラ（パワーハラスメント）とは、分かりやすく言えば、職場におけるいじめや嫌がらせ、その他の人格侵害行為のことです。

上司等が仕事熱心なあまり、部下に対する指導が行き過ぎてしまうことが多くあります。確かに、仕事熱心なことは大事ですが、部下側からすると多大な苦痛を受ける場合もあり、会社の業務と従業員の苦痛等のバランス上、難しい問題となります。

パワハラかどうかは様々な場面で問題となりますが、どのような場合に「法的な責任を問われるパワハラ」となるかについて、裁判例では次のように示されています（東京地判平２４年３月９日）。

「パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、『企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて，通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為』をしたと評価される場合」です。

わかりやすく言えば、被害者本人の感じ方だけではなく、客観的な立場から常識的にみるということです。また、上司の行為が圧力と評価できても、仕事上の指導等を超えた暴力（言葉の暴力）やいじめ等の程度が重いものである必要があるということです。

しかし、まだ具体的なケースで分かりにくいと思います。そこで、次の問が参考になります。

パワハラか否かを判断するにあたっては、厚生労働省のワーキンググループの提言が参考になります。

厚生労働省のワーキンググループの提言によれば、パワハラは６つの類型に整理できます。類型ごとに、客観的な立場から常識的に見て、仕事上の指導等を超え、その程度が重いかを検討することになります。なお、暴行・傷害は、行為態様が分かり易いうえ、犯罪行為にも該当しうるので、パワハラと認定されやすい傾向があります。

身体的な攻撃を伴うパワハラ行為の場合、暴行、傷害事件で刑事事件化する可能性もあります。また、精神的な攻撃にとどまるパワハラ行為であっても、ケースによっては、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪等で刑事事件化する可能性もないわけではありません。

パワハラが刑事事件化したケースでは、特に示談成立が重要となってきます。示談は民事事件の解決方法ですが、示談金を支払って被害回復がなされる点が、情状事実として刑事事件に影響し、軽い処分につながっていくからです。

また、刑事事件化するような強度のパワハラのケースでは、職場の懲戒処分、解雇等の厳しい処分も予想されます。被害者との間で示談が成立し、反省をしていると評価される場合には、解雇までされない、又は、裁判で解雇を無効と争える可能性も高くなります。

弁護士に相談・依頼することで、示談の必要性の判断、必要性がある場合には迅速で的確な示談成立が可能となることがあります。迅速な示談が可能となれば、刑事事件で不起訴処分を獲得することが可能となることもあります。

パワハラの場合は、被害者と加害者が近い知人であるケースがほとんどです。そのため、示談交渉は当事者間で直接行われることもあります。もっとも、直接相手とは話したくないという場合は、弁護士を立てることで話し合いをスムーズに進めることが可能です。示談交渉の専門家である弁護士であれば、相手が置かれた状況や立場を汲み取って、適切な方法を話し合いを進めることができます。そのため、こじれているケースであっても、示談が成立する可能性が高まる傾向にあります。

パワハラの場合も、示談が成立した後は、示談書を作成するのが通常です。示談書には、事件の内容は示談金の金額、またその支払い方法を記載することになります。一括で示談金を支払えない場合は、示談書に分割払いの支払いを記載するようにしましょう。示談書は、もしトラブルが再発した場合に重要な証拠となるので、必ず大事に保管するようにしてください。

パワハラの示談金の相場はトラブルの内容によってさまざまですが、軽微なパワハラであれば、１０万円前後の示談金で解決するケースも多いです。もっとも、１回１回の行為は軽微でも、数カ月〜数年間に及ぶパワハラの場合は、示談金の金額がかなり高くなる傾向にあります。被害者としても、少額の示談金では納得できないケースが多いからです。

また、パワハラ事件が傷害または暴行事件として警察沙汰になっているケースでは、示談金の金額が高くなる傾向にあります。加害者としては、示談を成立させることで、刑事手続きで不起訴処分を獲得できる可能性が高くなり、多少無理をしても示談を成立させたいと願うことが多いからです。

たとえば、刑事事件化しないようなパワハラ行為のケースでは、弁護士に依頼して示談するような例は多くないかもしれません。

会社内部の業務に関する事柄であり、内部事項に対して、個人の依頼を受けた弁護士が関与することは、あまり望ましくないからです（もちろん、会社から依頼を受けた弁護士の場合は別です）。

しかし、そのような場合でも、将来のことを見据えて事前に弁護士に法律相談しておくことは有用です。会社内での常識と、一般社会、とりわけ裁判所の判断とは、違ってくることは少なくありません。

また、管理職としての指導が必要な場合がありますが、「パワハラ」に過度に心配になると、適切な指導が行えなくなり会社の業務に支障が生じることもあります。

このため、どの程度であれば許容されるのか、また気をつけるポイントはどこか等、ご本人様の個別・具体的なケースをもとに、弁護士に相談することで、事前にパワハラを予防することは有用になります。

被害者が会社を辞めて、加害者、会社に損害賠償請求をしてきたようなケースなどでは、示談交渉が必要となります。このようなケースでは、弁護士に依頼して示談交渉してもらった方が良い結果につながる可能性が高くなります。

パワハラが原因となって退職せざるを得なくなったケースや精神疾患にかかってしまったケースでは、賠償金額が高額になる可能もあります（逸失利益などが問題となることもあります）。

パワハラによる損害賠償請求としてどの程度の損害額が認められるのか、証拠関係からすると認められる事実関係はどのようなものか等、実際に裁判に携わっている弁護士であればより的確に判断できます。

また、パワハラが起こる組織的な原因があれば、それを改善する機会となりますが、その際、弁護士であれば第三者的な視点と法律的な視点でアドバイスすることができます。