弁護士弁護士なし、自分で示談をするには

加害者本人が、弁護士なしで被害者と示談すること自体は可能です。

しかし、次のような場合には、加害者本人が直接示談交渉することはできません。

たとえば、加害者本人が、逮捕・勾留されている場合には物理的にできません。また、加害者と被害者が面識ない場合も、通常、弁護士なしでは、加害者本人が被害者の連絡先を知ることができず、加害者本人が示談をすることはできません。

なお、罪証隠滅や証人威迫と受け取られないよう、細心の注意を払う必要がありますが、状況によりそのような恐れがあれば、直接示談されるのは控えた方がよいでしょう。
被害者が加害者と直接会いたくない、又は、手紙も受け取りたくないと言われている場合にも、直接示談されるのは控えた方がよいでしょう。

まずは、被害者に対し、謝罪の言葉を伝える必要があります。

次に、被害者に対し、「被害弁償をしたい」、「治療費や慰謝料を支払いたい」など罪を償う旨の申し出をされてください。そのうえで、被害者と示談の条件を交渉された方が良いと思います。なお、被害者と加害者本人との関係や状況に応じて、臨機応変な対応が必要です。

注意点としては、被害者に対し、いきなり「示談をしたい」と言うと、誤解を与えるか、被害者の感情を逆なでる可能性があるということです。「示談」という言葉を「事件化させないで揉み消す」などの悪い印象で受け取る被害者もいます。

そのため、いきなり「示談をしたい」というのではなく、まずは被害弁償の申し出をされることをお勧めします。そして、最終的には、示談の成立や被害者の許しを得る方向に持って行かれたらどうでしょうか。

示談の際、罪証隠滅や証人威迫と受け取られないよう、細心の注意を払う必要があります。

そして、示談が成立するのであれば、示談書を作成する必要があります。

示談書には、事件の具体的な特定、示談金額(後日支払う場合には支払期限、支払方法なども)、被害者の許し(宥恕)、清算条項などの項目を設ける必要があります。清算条項とは、その事件に関しては示談書記載の権利・義務以外に何もないなどと書き、紛争の蒸し返しを防ぐ条項です。

また、「この人は金で解決すればいいと思っているのだな」などと被害者に誤解されないよう注意してください。謝罪と被害弁償をするという姿勢が大事です。

被害者に対し、無理に示談させたり、誤解をさせて示談したりしないように注意してください。検察官は、被害者に対し、示談の経緯などを聞きますので、そのときに上記のようなことが判明すると問題になります。

なお、加害者と被害者とで、事実の認識が異なる場合、示談するかどうか、又は、示談するとしてどのような解決にするかを注意される必要があります。どの程度異なるかによりますが、難しい問題であり、弁護士に相談だけでもされた方がよいでしょう。

弁護士なしのメリットは、弁護士費用がかからないということです。

また、弁護士なしのメリットと言いますか、弁護士が直接関与しない方がよいケースもあります。たとえば、被害者が家族・友人・知人などの場合、弁護士が介入することで不必要に構えさせてしまうことがあります。
その点については弁護士が相談を受けたときに、通常、弁護士が直接関与すべきかどうかを判断してアドバイスもします。

弁護士へは様々な依頼ができます。示談交渉の代理を依頼するだけでなく、相談だけを対応してもらうこともできます。
弁護士に相談だけ対応してもらう場合は、示談交渉の代理の場合に比べ、弁護士費用も多額にはなりません。また、相談だけの場合、弁護士が表立って出てくることはないので、被害者を構えさせることもありません。

さらに、弁護士費用と弁護士が付いた場合に得られる利益を比べて、費用倒れにならないか検討されると良いと思います。良心的な弁護士であれば、相談時に費用倒れになる可能性を指摘してくれます。

弁護士なしのデメリットは、法的リスクが高いという点です。

ご本人様で、示談金額を判断することになりますが、適正な金額から大きくずれるリスクがあります。特に、被害者が、不当な金額を強行に主張してきた場合などに、加害者側に弱みがあることから、あまりに高い金額で示談してしまうおそれもあります。

示談は、当事者の合意によって紛争を解決する方法です。示談が成立しても法律的に実現できない示談になる法的リスクもあります。たとえば、器物損壊罪などの親告罪で、起訴後に告訴取下げを合意した場合、被害者が告訴取消しをしようとしても法律的にはできません(刑事裁判は続きます)。

また、事件によっては、示談が成立した後に、起訴されて刑事裁判がはじまることがあります。後日の刑事裁判において証拠にならないか、又は、量刑にあまり響かない形で示談書が作成される法的リスクもあります。

同じようなことは、民事裁判の場合にもあります。たとえば、示談で解決したと考えていたのに、被害者の認識は違っており、示談書も「示談で解決した」ということを示す証拠としては弱いケースなどもあります。

さらに、本人が認識していないリスクもあります。認識しているリスクについては、ご自身で調べて、ある程度対策をとることが可能な場合もあります。しかし、認識していないリスクについては対応できず、後で後悔してしまうこともあります。

トラブル事は精神的な負担も大きいですが、それが刑事事件になれば尚更です。先が見えず、つらく逃げ出したい気持ちになることもあります。誰にも相談できず、追い込まれることもあります。その時に、冷静なアドバイス、励ましなど、力になってくれる弁護士がそばにいないのは、大きなデメリットだと思います。

示談を進めるにあたって、「弁護士不要」と言えるケースも多くあります。当事者の間だけで、円満な示談ができる見込みがあれば、弁護士は不要です。

たとえば、加害者の反省した態度を見て、被害者が円満な示談に応じてくれていたことが多くあります。また、示談後も何らかの関係が継続するケースで、円満な示談がなされていることが多くあります。たとえば、家族や、友人の関係、又は、職場、取引先の関係者などです。

示談では、法律に従った解決が必ずしも一番良いわけではなく、双方が納得できる解決が一番大切となります。

弁護士は必要です。

当事者の間で示談ができないのであれば、最終的には民事裁判で賠償金額が決められます。そのため、民事裁判の見込みを踏まえた、弁護士が交渉すると示談でまとまりやすくなります。

また、被害者からしても、示談金が適性な金額かわからないから示談に応じない場合もあります。弁護士が、示談金額の根拠をキチンと説明することで、被害者が納得して応じてくれることも多くあります。

被害者は加害者への怒りや恐怖から、加害者と話すこと自体を拒絶することがあります。そのような場合には、弁護士であれば示談交渉の場に出てくれることもあり、弁護士限りで捜査機関から被害者の住所を教えてくれることもあります。